舟の帆つな切った神様  (長浜)28


ある夜のこと。白糸湾【舞鶴湾】をすべるように一隻(いっせき)の北前船(きたまえぶね)が北西(ほくせい)に向け走っていた。風はほどよいく帆(ほ)を半月のようにはっていた。

北前船には、頭のはげあがった六十才前後の船頭(せんどう)らがのっていた。船頭は「さきほどから胸さわぎがしてならない」と、ひとりごと、西の空が少しくもってきて由良ヶ岳の上の空に星も見えなく雲がかかりだした。お昼なら長浜の白砂と山のみどりが美しい高倉神社、その御神燈(ごしんとう)があかあかと海を照(て)らしている。

吹いてきたなまあたたかい風が吹いて頬(ほほ)をつたう。波が少しばかりでてきて、「バシャン、バシャン」と船べりをたたく。高倉神社の御神燈がゆれている。
船乗(ふなの)りたちも「今夜はどうしたことか」と、さわぎたてる。船のにもつは浜村のソウメンなどたくさんつみこまれている。ほくりくの金沢(かなざわ)までとても早くはこばなくてはなりません。

船乗りの一人がゆびをさし「おーい。みんな見ろ西の空は雲で真っ黒ろだぜ、」と言いながら西の空を見あげる。みんなは不安そうに、その方を見つめたのです。波が高く船が上へ下へとゆれだしました。「あゝ神燈が消える、・・・消えてしまった。」今まで消えたことのないあかり、風がさきほどからきつくなってきました。波のうねりが、だんだん大きくなる。船は前へ進まない。とたんに風は西から東へとまわったのです。帆柱(ほばしら)がきしむ、船乗りたちは帆綱(ほづな)をきつくむすびなおしました。

ますます風がでてきて、とつぜんに「ぶつん」と帆綱がきれ、帆が落ちてくると共に船は左右に「グラグラ」とゆれ、船員たちは左へ右へと船の上を立つて歩けません。
船はもときた方に流されて行きます。船頭たちは高倉の宮に両手をあわせお祈りしたのです。すると船は長浜の砂浜に引きよせられるように、うちあげられたのでけす。

その夜は風が吹きまくり、大雨も降りました。早朝になりようやく風も雨もおさまったのです。あとの話によると、海に出た船のほとんどは難破(なんぱ)したそうです。船頭は「帆綱がきれたのは高倉の神様のおかげだ、あのまま、 外海にでていたら、今ごろ海のもくずになっていただろう。」と、命びろいをした船乗りに話ました。

船頭は高倉神社にまいり、お礼をいうと共に、大きなローソクの神燈をともしました。
このことが人々につたわり、帆綱をきって救ってくれた神様をお参りする人がふえ、おまいりする人は必ず大きなローソクをおそなえしのです。

舞鶴市指定文化財 所有管理者 高倉神社 所在地 字長浜
    区   分       名      称  制作年代
   彫  刻     男神・女神坐像(だんしん・じょしんざぞう)  鎌倉

      男神坐像・女神坐像

    参考資料  舞鶴の文化財