庄屋の息子と大蛇 三浜
小橋
そのときだった。一天にわかにかきくもり、黒々とした雲が空一面をおそったかと思うと、らいめいがとどろいたのや。そして、島の方からは、「ランラン」とした大きな目をむき、口からは火ばしらを吹き上げながら、だいじゃが現われたのや。そのだいじゃのおそろしい姿たはたとえようもなく、だいじゃが海に入ると、海は大波となって白いキバを立てて、しょうやのむすこの舟を木の葉のようにもてあそんだかと思うと、アッという間もなく息子は舟もろとも大波にのみこまれてしまったそうや。小橋村の浜で村人や、母おやがじっとして海を見つめて息子の帰りを待っていたのや。母おやは、このようすを目の当たりにすると、行き先をつげることもなく、どこへともなく姿を消してしまったのや。何日かたってから、母おやがいつも使っていたツゲのクシが浜にうちあがったのや、悲しみのあまり母おやが海へ身をなげたことがわかったのや。村人たちは、このようすを見て「神様、ひどいことを」と、このときから、イソカズラ島へのお参りをやめてしまったのや。そして何年かたつうちに、イソカズラ島の、おやしろはくちはて、ついにくずれ落ちてしまったのや。
このあと村人が集まって話し合いの上、村の
氏神様うじがみさまのとなりに、カズラ島神社をふたたびたてたのや。それでも、しょうやのむすこも神器の行方も、いっこうにわからなかったのや。そして小橋のしょうや、はだいだいでなく、そのつど村人の話し合いで決めることになったのや。現在、イソカズラ島では小さなヘビをよく目にするが、大きなヘビは見かけないのや。そして、わかさの海もふだんはしょうやのむすこのれいをなぐさめるようにおだやかだが、ときとして美しい白波は人を飲みこむことがあるそうや・・・・。
(1)オオアナチノミコト おおくにぬし‐の‐みこと【大国主命】日本神話 で、出雲国の主神。素戔嗚尊
(2)スクナビコナノカミ 少彦名神
二神が協力して天下を経営し、禁厭マジナイ・医薬などの道を教え、国土を天孫瓊瓊杵尊ニニギノミコトに譲って杵築キズキの地に隠退。今、出雲大社に祀る。大黒天と習合して民間信仰に浸透。大己貴神オオナムチノカミ・国魂神・葦原醜男・八千矛神などの別名が伝えられるが、これらの名の地方神を古事記が「大国主神」として統合したもの。広辞苑より